2005年08月29日
最後の炎
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朝の草毟りの際に、それほど暑さに苦しむこともなくなってきた。段々と夏が終わっていくのですなあ。暑くて敵わん、と思っていたのも束の間のことであった。直に、寒いですなあ、ああ、寒い寒い、などと言い出すのである。そんなことを繰り返して七十余年。尤も、幼少時には暑い寒いであまり愚痴は溢しませんでしたか。考えてみれば、学生時分だってそうだね。暑い暑い、寒い寒い、とは言っていただろうけれど、それはそれで楽しんでいたような気がする。
無駄に長い人生を送っている私ですが、今日、生まれて初めての経験をしました。蚊遣りですよ。あの、蚊取り線香が消える瞬間に立ち合ったのである。あんなものはね、夏場となれば、毎日毎日、ばかみたいに燃しているのだから、燃え尽きる瞬間に出合ったとて、そんなことが珍しいことである筈がないと思うのだけれど、初めてだったのである。もしかしたら、世間の皆さんは、そんなものは何度も見たことがあるよ、と仰るのだろうか。第一、蚊取り線香が燃え尽きるのが何だってんだい、と、そうお思いかもしれない。まあ、そう言われればそうなのであるけれど、私にとっては、生涯において初めての出来事であるし、何というのか、ある種の感動を覚えたのですよ。自らの勤めを全うして消えてゆく姿。最後の炎。燃え尽きて灰になる。今生に悔い無し。あれこれと、言葉を思い浮かべてみるけれど、良い表現がみつからない。兎にも角にも、私は、その最後の瞬間に立ち合えたことに感動を覚えたのであります。ご苦労様でした、という気になった。友人が亡くなったような、そんな気持ちとは全然違うのだけれどね。何だか、改めて感謝したくなったというか。あれだね、ちょこっと近いと言えば、萬年筆のインクの瓶が空になる時の気持ちにも近いかもしれない。尤も、インクの瓶てえものは、作りが悪いからね、最後の一滴どころか、かなりの量が吸い込めずに残ってしまう。まあ、構造上仕方がないのだろうけれど、とても勿体ない気がする。それで、そのインクに書の筆を浸して、落書きしてみたりしてね。それはそれで中々楽しいから良いんだけれど……って、一体、何の話をしていたのだったか……ああ、そうそう、蚊遣りの燃え尽きる姿であった。夏の終わりを象徴するような図であった、などというと、如何にも胡散臭い響きの物謂いだけれど、実際、私には、そんなように思えたのであります。そうは言っても、明日からも、未だ未だ蚊遣りは炊くんだけれどね。
投稿者 nasuhiko : 2005年08月29日 17:05
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