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2005年05月09日

icon梅の香り


 気がついてみると、いつの間にか、梅の実が随分大きくなっている。少しだけ艶やかで、瑞々しい緑が眼に眩しく、見ているだけで鼻の奥に甘酸っぱい香りが届いてくるようである。折角だからと、近寄ってみる。おかしい。顔を寄せてみる。おかしい。鼻を寄せてみる。おかしい。鼻の穴に入らんかな、という程に梅の実に近づく。鼻の穴に入れないまでも、鼻の頭に擦れる状態にしてみても、それでも匂いがしないのである。仄かに鼻腔を擽るような芳香を期待していただけに、正に鼻白む思い。何なんだ、この梅てえやつは。人の気持ちを玩びおって。全く以て失礼な奴である。まあ、これは、誰が考えたって、八つ当たりに過ぎないのであるけれど、八つ当たりしたくもなるほど、この老い耄れは期待していたのであります。
 ううむ。梅というのは、これ程に香らないものだったのだろうか。だとすると、私の記憶の中のあの香りは一体何なのだろうか。釈然としない。梅のジュースや梅のジャムや梅のゼリーなどを食する機会が、偶に、というか、人生の中で幾度かはあったけれど、それらはみんな、梅らしい匂いを放っていたと思うのだが、私の記憶違いだろうか。勿論、老い耄れの記憶なんざ年中狂いっぱなしではあるけれど。そうそう、そう言えば、酎ハイの類にも梅の看板を背負っているものもあり、そういうものも、やはり些か甘く梅らしい匂い付けがなされている。そうだ。梅のガムや梅の飴というものもありますな。ああいうものも全て、特有の、如何にも梅らしい香りと甘味があるように思うのであるけれど、あれらは全て、企業が消費者をだまくらかすべく作り上げた、幻想の梅の香りなのだろうか。そういうものに日本中の、否さ、世界中の大衆が騙されているのだろうか。ううむ。謎である。
 それとも、私の鼻から梅の匂いだけが奪い取られてしまった、なんぞという、SF的なことがあるのでありましょうか。何とも不思議である。目の前に梅がある。触れることさえできるのに、匂いが感じられない。どうなっておるのだろう。そんなことはどうでもいいじゃありませんか。そうなのである。そんなことはどうでもいいのであるけれど、しかし、何とも、気持ちがすっきりしない。この不愉快な梅の木をば切り倒してやろうか。そんな乱暴な気持ちに、一瞬だけとはいえ、なったのでありました。嗚呼、梅の香りよ、何処に。

投稿者 nasuhiko : 2005年05月09日 17:30

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