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2004年12月29日
恵子くん来訪09
二人掛けのテーブルが形ばかり二つ、残りはカウンターだけの小さなスナック『白木』で古市と待ち合わせ。ママは小学校時分の同級である。
「茄子彦くんは、しばらくぶりよねえ」「そうですね、まあ、そうは言っても十年はたたないと思うけれどね」「最後に来たときは奥さんと一緒だったものね。きれいな外人の奥さんもらったのにも驚いたけど、あんなに早くに亡くなるなんてねえ」「まあ、生き死にってなものは人の力を超えたところで決まるんだろうから、しょうがないんだけれど、残念なことです。白木さんは、ご主人はお元気なのかい」「やたらに元気よ。元気すぎて困るぐらい。あら、変な意味じゃないわよ」あははははは、と高笑い。こういうところは、昔からちっとも変わらないな。小さいながらも繁盛して何十年も続いているのは彼女の、こんな朗らかさにあるのかもしれない。そんなことを思っているところに、古市が入ってきた。不動産屋の集まりがあったとのことで、一杯どころか、かなり引っかけてきているようである。白木さんを相手に軽口を連発している。水割りをぐびぐびと飲み、カラオケを始めた。「黒い花びら」だ。この男、酔うと必ずこれを唄う。しかも、唄い込んでいるだけあって、これがなかなかの腕前なのが、小憎らしい。曲の合間に「茄子彦、おまえも唄えよ」とマイクを使って怒鳴る。この狭い店に、三人しかいないのだから、大声を出さなくてもわかるってのに。呆れる以外に何ができよう。
酒の勢いは留処ないようで、休むことなく歌が続く。七十過ぎても、なお、この体力。驚く、というより、恐ろしい。周りのことは気にせずに、小一時間ほどひたすら唄ったところで一段落したのだろう、マイクを漸く手放した。
「茄子彦、高部の妹の話だけどな、死んだ日はあれで間違いないようだ。あっちこっちに確認してみた。ポストに残っていた新聞や郵便物、電話の記録、検死、全部同じようなものだよ」酒に溺れて忘れてしまっているのかと思ったら、ぼそぼそと話し始める古市だった。「そうか。手間を取らせてすまなかったなあ」「気にするなよ。こんなことは、おれにしてみりゃ、どうってことないんだから。不動産屋なんてやってるとさ、妙なことにであう確率が高くてね。五十年もやってりゃ、変死事件にだっていくつも出くわしたよ。知らなくて済むなら知らないで済ませた方がいいってことだって、世の中にはあるんだよ」物知り顔でそう言うと、白木さんを誘って、「銀座の恋の物語」を唄い始めた。七十年も生きていれば、人は色々な年輪を重ねているものなのだな、と今更ながら、感じ入る。ありがとう、古市くんよ。
投稿者 nasuhiko : 2004年12月29日 07:13
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