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2004年12月18日
恵子くん来訪02
この歳になれば当たり前のことではあるけれど、突然の連絡の中に、訃報や病状報告が増えてくる。過半がそのような陰気な話題だと言っていいだろう。
人間はどんなことにでも慣れる動物である、と言ったのはドストエフスキーだったろうか。慣れる動物、確かにそれはそうなのであろうけれども、特定の事物に慣れるということとその事物から受ける衝撃や感動がなくなるということは別の問題だ。そもそも、受け取り方が変化するのは当然だ、何しろ、私たちは刻一刻と新しい私へと変化し続ける存在なのであるからして。御託は兎も角として、何度聞いても慣れられないし、慣れたくもない事柄が存在するのは事実である。それは嬉しいことであったり悲しいことであったり様々だけれど、私はこんなじじいになっても、まだ訃報には慣れられないし、慣れたくもない。
午後になって、木澤くんから電話があった。彼とは中学の時の同級である。かれこれ六十年ほどの付き合いになるわけだ。そうか、疾うに半世紀を越しているのだな。賀状や暑中見舞いのやり取りはある。また、近所に住んでいるので、道端で擦れ違って、最近はどうだね、などと立ち話をすることはある。けれども、その程度のつきあいなのであって、日常、電話のやりとりは、まず、ない。そもそも、私は同級生の間でも偏屈で付き合いにくいと思われているはずだし、電話嫌いでも有名なはずだ。マリがいた頃には、自分で電話に出ることなど滅多になかった。考えてみれば、外部との接触に関しては、かなりの部分でマリに依存していたのであった。
「近頃はどうだい」と当たり障りのない木澤くん。
「まあ、あまり変わらんね。そちらこそどうですか」
「こっちもあまり変わらんよ。ところで、古市から聞いたんだけどね、高部の妹が亡くなったらしいよ。何か聞いているかい。高部が死んだ後も君とはつきあいがあったんじゃなかったかい」
言葉が出なかった。恵子くんは先日訪れてくれたばかりではないか。一緒に杯を重ねたばかりではないか。
「どうした。聞こえているのか、茄子彦」
「うるさい」
結局、出てきた言葉はそれだけで、がしゃりと受話器を置いた。
投稿者 nasuhiko : 2004年12月18日 08:46
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