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2004年11月20日
風邪
風邪を引いた。激しい悪寒と立ち暗みから判断して重篤な状態であると感じ、直ちに主治医(近所の町医者であるけれど)にお世話になる。待合室で待っていること自体が非常に困難である。懸命に書物に集中しているつもりでも、老体は少しずつ傾げていき、気がつくと、壁にべたりと凭れかかって喘いでいるというような有り様。些かでも心紛れるようにと、大名人の『普賢』を手にしてそれこそ必死の思いで読んでいるのであるのに、内容など何も頭に入らない。しかし、何もしないでいると、ますます息は苦しく、ますます関節は痛く、ますますくらくらくらくらするのでしょうがなく、頁に向かう……壁にへばりついている自分に気づき、体勢を立て直し、本に向かう……という繰り返し。
若先生(長年親しんだ先生は亡くなられて、今、お付き合いしているのは御子息である。もっとも、御子息も、もはや“若”先生と呼ぶにはあまりに薹が立っている)の見立てによれば、どうということのない、風邪だそうである。ただ、今年の風邪は症状が厳しいので強い薬を出しておきます。強い薬ですから用法を間違わずに服用して下さい、とのことであった。
帰路、コンビニエンス・ストアに立ち寄り、高菜のおむすびと豆腐と長ねぎを購入する。コンビニエンス・ストアで一人分の食品を購入するという作業が、毎度のことながら、非常に淋しい気持ちにさせる。日常、独り身の侘しさを意識することなど、そうそうありはしないのだが、がちがちがちがちちーぃんとレジが打たれ、×××円です、と告げられるまでの、ぼーっとレジの前で待たされているわずかな時間は何とも孤独な気持ちになる。そうさ、私には食を伴にする何者もおらんのだ。そうさ、私には食を伴にする何者もおらんのだ。貴女のお見通しの通りでござい。
マリが亡くなって、もう五年になります。
おむすびを食べ、合成ペニシリン製剤、解熱鎮痛消炎剤、ビタミン顆粒、健胃錠を、指示された通りに服用して、横になる。すぐに睡魔が襲う。目が覚めると既に七時、豆腐を食し、薬を飲んで横になる。強い薬をいただいたはずなのだが、今度は、すぐには眠れない。腰も痛い。頻々と向きを変えてみるが、腰の痛みを緩和できる位置がみつからない。
たかが風邪である。たかが風邪ではあるけれど、病身で独り床についていると、細雨が土に染み入るように、そこはかとない淋しさが私の心の隅々に入り込んでくる。拭い去り難い。
投稿者 nasuhiko : 2004年11月20日 00:00
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